映画感想:「ソーシャルネットワーク」


とりあえずの感想は「こんなに早口な映画は見たことない」ということ。主人公のザッカーバーグも、ナップスター創設者のショーンも超早口でよく喋る。その他の登場人物に関してもとにかくこの映画はセリフが多い。だいたい映画の8割くらいは誰かが喋っている。それゆえ情報量は膨大。物語の途中からは二つの示談交渉が挟まって時間軸も行ったり来たりする。

普通そういう会話と情報量が多い映画は、観ている側が途中で話の筋についていけなくなったり、飽きてきたりすることが多いのだけれど、この映画はそうさせない所がすごい。テンポのよいストーリー展開と心地よい映像と音楽でどんどん観客を惹きつける。おそらく脚本と演出が素晴らしいのだろう。ディビッド・フィンチャーの本領発揮というところ。


例えば、映画冒頭のザッカーバーグとエリカのシーン。のっけから説明なしでザッカーバーグと恋人の早口な会話で始まり、それが延々5分くらい続く。しかもふたりの会話は全然かみ合ってない。にもかかわらずそのかみ合わなさが面白いし(途中から「一体何の話?」ってエリカが怒り出すのがおかしかった)、その後のストーリー設定がきちんとなされている。こんな映画の冒頭見たことない。この冒頭シーンを書いた脚本家とそれにOKを出した監督がすごい。ナイス・コンビネーション。

全体のストーリーは、アメリカ学園ものによくある「ナードの逆襲」というやつで、結構ありきたりな展開だと思うんだけど、なぜこんなに見る者を飽きさせないどころか、ぐっと集中力を惹きつけるんだろうか。いろいろ理由はあるけど、とにかく映画の「作り」が上手いということに尽きるのだろう。テンポの良さ、セリフの言い回し、配役、映像、音楽など(個人的にサウンドトラックの使い方がすごく好きだった)。

ラストも冒頭との円環構造になっていて、そしてザッカーバーグの成功後の複雑な心境を絶妙に表していて、美しい終わり方。結局、ザッカーバーグは人生に勝ったのか負けたのか。そして最終的にエリカはザッカーバーグのリクエストを受け入れたのだろうか?自身が創設したFacebookに登録した元恋人の写真をPC越しに眺めながら、更新キーをたたき続けるザッカーバーグ、という画は観る者に様々な余韻を語りかけてくる。



と、ここまではこの映画を絶賛してきたけれど、映画全体としては、「そこまで絶賛されるほど素晴らしい映画かなぁ? 」という気もしました。確かに多くの面で映画の作りは上手いのでしょう。しかし個人的には胸を揺さぶられるほどの感動や興奮はなかった、というのが正直なところ。いや、本当に最後まで面白く見たんですけども。しかし、この物足りなさは何なんだろう?

おそらくそれは、ザッカーバーグやショーンのような生き方に対する僕なりの不信感というか、ピンとこなさみたいなものがあるんだと思う。ああいういかにもITベンチャー的な「俺がインターネットを通じて世界を変えてやる」的な野心と熱狂みたいなものがあまり好きになれないんですよね。それよりも先々週に見た「アンストッパブル」のブルワーカー的職人気質みたいなものの方が好き。あるいは先週に見た「ノルウェイの森」のワタナベ君のように、そのような熱狂や華やかさに背をそむけて孤独に小説の世界に入り込んで生きている方が好き。


とはいえ、この映画はハッカー文化万歳、インターネット万歳みたいな軽薄はノリではなく、熱狂の後に来る空しさや孤独をきちんと描いているので、そこは好感をもちました。ザッカーバーグの生き方や哲学にどれくらい共感できるか、という点でこの映画の評価度合いは分かれるのではないかという気がします。野心ある若者や、IT系の仕事に就いている人などは、この映画を通じて希望と興奮を貰うのかもしれません。

というわけで、映画の作りの上手さは誰もが認める映画だと思うんですが、物語としてザッカーバーグの生き方に共感・感動できるのかどうか、見終わった人の感想を聞いてみたくなる映画でした。この映画も「アンストッパブル」とはまた別の意味で、リーマンショック以後のアメリカを映し出す映画のひとつではないかとも感じました。その流れでいくと「ウォール・ストリート」の続編も気になりますね。

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オフィシャルサイトの作りがなかなか凝っています。

twitterの感想が面白い。ある人のつぶやきで、「ナップスター創業者のショーン・パーカー役にジャスティン・ティンバーレイクを起用したのが面白い。音楽を無料でダウンロードできるようにしてしまったショーンを被害者の一人であるミュージシャンが演じる。これは痛烈なブラックジョークだ。」というのがあって、なるほどと思った。


主演ジェシー・アイゼンバーグ インタビュー

→「時には100回以上のテイクを撮るときもあったけど…」とのこと。100回!さすが。


脚本家 アーロン・ソーキン インタビュー

→脚本が通常の1.5倍だったとか。どうりで早口になるわけだ(笑)
>「1ページ1分が目安なのに162ページもある。こんなに多いのは私が言葉を重ねてストーリーを語るタイプだから。普通に撮れば162分のところを120分に凝縮するわけだから、俳優たちはすごく早くしゃべらなければならなかった」