「J・エドガー」感想

観てきました。初のイーストウッド監督×ディカプリオ作品、しかもFBI初代長官の半生を描いた史実もの、ということでかなり期待して観に行ったのですが、正直期待はずれでした。悪い映画じゃないんだけど、さすがに地味すぎる(笑)淡々とストーリーが流れていって、あまりに盛り上がりに欠けるという印象でした。1930〜60年代のアメリカを再現した映像の雰囲気や、ディカプリオの演技はいいんですけどねぇ。もうちょっとストーリーに起伏を作れなかったものか。まぁこの辺りは個人的な好みかもしれません。(渋くていい映画、と言われればそうなのかも)

「優秀な国家公務員であったエドガーが、権力者としてのし上がる中で次第に腐敗していく様を描く」というのがこの映画の趣旨だと思うんですが、個人的には「こいつ若い時から一貫して危ない思想を抱いた権力志向の人間やんけ」と思えてしまって、あまりこの人物の成長あるいは腐敗の過程みたいなものに感情移入できませんでした。マザコンや同性愛ゆえの歪んだ内面葛藤、という描写にもあまり心動かされなかったなぁ…。
優秀な部下との禁断の同性愛、がちょっとした可笑しみのポイントなのかもしれませんが、特殊メイクをした爺さんどうしのボーイズラブ(?)を見せられてもちょっとなぁ…ということで、正直僕は引いてしまいました。若い時のふたりだと、まだちょっとはニヤニヤできるところがあったんですけどね。特殊メイクのディカプリオも、うーん、個人的にはあんまり見ていて気持ちいいものではなかったな…。ディカプリオの演技自体は素晴らしいんですがね。

個人的な好みをいうと、もっとこのエドガーという人物の内面的な闇を追い込んで、グロテスクに見せて欲しかったです。昨年の『ブラック・スワン』みたいな。あの映画だと、はじめは生真面目で優等生だったバレリーナーが、栄誉を得るとともに次第に狂っていく様が非常にドギツく描かれていて、とても感動&興奮したのですが。
今回のエドガーの描き方だと、若い野心家の頃から年老いて過去を振り返っている時点まで、エドガーという人物の優秀さや歪さにほとんど変化がない。「国家の安全を守るため」という名目のもとに、自分はとんでもないことをしてきたのではないか?という葛藤もない。一貫して自分の言動に自信を持ち続けている(母親の前では葛藤を抱えているんだけど追い込み不足)。ゆえに、全体のストーリーに起伏がなくて、感情が盛り上がるポイントがない…。と感じてしまいました。

唯一、ラスト近くでちょっとしたネタばらし的な展開があって、おぉっ、これまでの淡々とした描写はこのドンデン返しのための長いフリだったのか!?と思って期待したのも束の間、結局エドガーは特に反省の様子も苦悩の様子も見せるでなく、あっさりと友人の前から去ってしまい、そして湿っぽいラストへ向かっていく、となって「なーんや」とガッカリしてしまいました。

FBI設立の経緯や、当時の反共産主義の雰囲気、科学的捜査導入の過程などは、それぞれよく分かって面白かったといえば面白かったんですけどね。911以後のアメリカはすでにここで予見されていたのか、みたいな。あと、若いエドガーとガンディが図書館でデートして、エドガーが「何分で本を探せるか時間を計ってて!」っていうシーンは結構好きでした。本好きなのでああいうデートは萌えるなぁ。グレン・グールドのピアノがBGMなのも良かったです。
というわけで、アメリカ歴史好きで渋い映画が好みの人ならもっと楽しめるのかもしれません。心理的追い込み系映画好きな僕にとっては、ちょっと不満の残る一本でした。