コンピューター将棋、ついに男性プロ棋士に勝つ!

もう2ヶ月近く前のニュースですが、コンピューター将棋がついに男性プロ棋士を負かす、という歴史的事件がありました。

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◆米長永世棋聖、無念…将棋ソフトに敗れる

日本将棋連盟会長の米長邦雄永世棋聖(68)が14日、東京・千駄ケ谷将棋会館でコンピューター将棋ソフト「ボンクラーズ」と対局する「第1回将棋電王戦」が行われ、後手の米長永世棋聖が113手で敗れた。引退して8年、タイトル獲得通算19期の歴代5位を誇る永世棋聖だが、終局直後は右手をほほに当て、唇をかみしめるしかなかった。

ボンクラーズ」は会社員、伊藤英紀さん(49)が開発し、昨年の「第21回世界コンピュータ将棋選手権」で優勝した最強ソフト。18年に同じ大会で優勝した「ボナンザ」を複数台並列に接続する「クラスター」からとって名付けられた。

 持ち時間は各3時間。米長永世棋聖は序盤、優位に進めたが、積極的に動き始めると、「ボンクラーズ」は待っていたかのように反撃を開始。形勢は徐々に逆転し、最後は大差がつき、午後5時14分、永世棋聖は無念の投了となった。

 将棋ソフトはここ数年、棋力向上が顕著といわれ、プロ棋士が公の場で対局することは禁止された。だが、19年3月には新たな棋戦のスタートを記念して渡辺明竜王が「ボナンザ」と対局、一昨年10月には清水市代女流六段が「あから2010」と対戦、渡辺竜王は勝ち、清水女流六段は負けた。

 終局後の記者会見で米長永世棋聖は「序盤は完璧に指したが、途中で見落としがあり攻め込まれた。私が弱いからだ。次回は棋士5人がソフト5台と同時に対戦する」と話した。勝った「ボンクラーズ」の伊藤さんは「これまで一歩一歩開発に進んできた結果です」と謙虚に話した。(産経新聞

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コンピューターに敗北したのは米長邦雄永世棋聖(将棋連盟会長)。昨年、初めて女流プロ棋士清水市代女流六段)がコンピューター「あから」に負けましたが、その仇討ちに乗り出した米長会長もあえなくコンピューターに敗れてしまった、という格好。

◆コンピューター将棋が女流王将に勝利 6時間を超える激闘、86手でコンピューターが制す


僕が一番熱心に将棋をやっていた中学〜高校時代はもう十年以上前ですが(月日が経つのは早いなぁ)、その頃のコンピューター将棋はアマチュア三段にも勝てないような状況で、プロ棋士の人たちも「自分が生きている間はプロがコンピューターに負けることはないだろう」と言っていたのを覚えています。それからわずか十数年でコンピューターは現役女流トッププロと元名人の男性棋士を負かすまでに成長したのですね!コンピューター精度の年々の成長を考えれば、まぁそんなものかという気もしますが、小学生の頃から将棋を嗜んできた人間としては、やはり驚きを禁じえません。


次のコンピューターvsプロ棋士の勝負としては「5人のプロ棋士と5つの将棋対局ソフトによる団体戦を2013年中に開催予定」なんだとか。おそらく若手〜中堅くらいの現役棋士を集めてくるのでしょうか。1年たつとコンピューターはまた強くなっているでしょうから、はたして何人の棋士がコンピューターに勝てるのか、興味が高まるところです。なんとか人間全敗だけは避けてほしいものですが(笑)

しかしこの調子でいくと、羽生・佐藤・渡辺といった男性トッププロ棋士をコンピューター将棋が引きずりだす日も遠くはなさそうです。遅くとも10年以内、早ければ今から5年以内には、「羽生善治vsコンピューター将棋チャンピオン」の対決というゴールデンカードが開催されることになるのではないでしょうか。これもなんとか一度は羽生さんに意地を見せてほしいものだなーと今から勝手に想像したりしています(笑)


余談ですが、僕は個人的にこの米長邦雄という人間が嫌いです。この元名人には天皇へのごますり問題やら名人戦移籍問題やら女流プロ棋士独立問題やら女性問題やらといろいろ伝説があるのですが(興味ある方は検索してみてください)、どれもこれも人間として最低だな、と思う行為ばかりです。「泥沼流」やら「さわやか流」と呼ばれる気風も個人的には好きになれない。

しかし、こと商売人としての才覚には非常に優れていると認めざるをえません。数年前から始まった、プロ棋士vsコンピューターの演出に関しては、これ以上ないというくらいの采配で将棋ファンを楽しませてくれています。いきなりコンピューターと現役男性プロ棋士を戦わせるのではなく、まず女流プロを生贄に差し出して(このあたりもよく考えると下劣な性格が表れている気もしますが)、次に元名人で現会長の自分が仇討ちに乗り出す。よく出来た筋書きです。弱い棋士から小出しにしていく、といっても無名の若手棋士のような小粒を出すようなケチなマネはせず、出すときは女流棋士トップ、元名人という大物を出すことで勝負に華を添える。対戦を発表してからしばらく期間をあけて、どちらが勝つかの予想を盛り上がらせる。このあたりの演出はプロデューサーとしては非常に上手い。

しかも、男性プロ棋士で敗れる対象として、自分の首を指し出したこともやはりアッパレと言わねばならないのでしょう。元名人がコンピューターに敗れたとなれば、その後コンピューターと対戦する若手棋士も言い訳がたちやすくなるでしょうから。「元名人、現会長が負けたんだから、ペーペーの自分が負けるのも仕方がない」と。さらにいえば、米長会長自身は現役プロを退いてもう数年がたつので、「全盛期の頃の勢いは今の自分にはないが…」という自分への言い訳もしっかり立ちます。(とはいえ、さすがにコンピューターに負けるのはかなり悔しいし、屈辱的な出来事でしょうが。だからこそその判断は偉いといえる)

人間的な憎たらしさと商売人としての巧みさ、かつその道での実力と実績も兼ね備えている、という意味では、芸能界を追放中の島田紳助に通ずるところがあるかもしれません。将棋界でも内心、米長邦雄人間性を嫌いな人・信用していない人がほとんどでしょうが、ここ数年の将棋界の発展が彼の采配に支えられているという実績は多くの人が認めざるをえないところでしょう。こういう人物は、やはりある種の人間くさい魅力はありますね。悔しいですが。

まぁそれはともかくとして、一体あと何年で羽生善治がコンピューター将棋に敗れるのか、将棋ファンにとっては非常に関心のあるところです。将棋界に羽生善治に代わる新しいスターがなかなか生まれずマンネリ感が漂うなか、「人間vsコンピューター」という新しい見世物がファンを魅了しています。将棋界にとっては、間違いなく大きな転換点に差し掛かろうとしているところなので、これからもいち将棋ファンとしてその動向を追いかけていきたいなと思っています。


◆参考記事
・いかに戦ったのか――「米長邦雄永世棋聖 vs. ボンクラーズ プロ棋士対コンピューター 将棋電王戦」を振り返る

・米長永世棋聖を下した将棋ソフト「ボンクラーズ」の計算力−−壮絶な読み合い、わずかなミスを突き猛攻

・将棋電王戦 米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ 渡辺竜王のコメント要約(togetter)