書評:『ウォーホールの芸術』

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)


アンディ・ウォーホールといえば、キャンベルスープ缶やマリリン・モンローの絵で有名ですよね。
美術史上では、「ポップ・アート」の旗手として知られています。
その程度の知識は僕にもあったのですが、なぜウォーホールキャンベルスープ缶やマリリン・モンローなどを題材として取り上げ、そしてあのような形で描いたのか、ということがこの本に書かれていて、なるほど、と非常に納得しました。


例えばキャンベルスープ缶は大量生産・大量消費社会を象徴する商品のひとつです。



ウォーホールキャンベルスープ缶の絵を初めて描いたのは1961〜62年ですが、50〜60年代のアメリカは「ゴールデン・エイジ(黄金の時代)」と呼ばれる繁栄期であり、大量生産・大量消費を基盤とする戦後資本主義経済の発展期でした。人々はかつてないほどの豊かさを享受し、電気冷蔵庫、電気洗濯機、自動車などが人々の生活を豊かなものに変えていきました。
そしてこうした環境の変化を敏感に察知し、美術に反映させたのがアメリカ生まれのポップ・アートの世界でした。


缶詰食品は、どこでも入手でき、いつ誰が食べても同じ味の食べ物です。それは、大量生産・大量消費の仕組みが食事の領域にまで拡大してきたことを意味していました。ウォーホールは、そのような大量消費社会を象徴する題材として、キャンベルスープ缶をその題材に選んだと捉えることができます。



また、マリリン・モンローを題材とした際には、「シルクスクリーン・ペインティング」と呼ばれる手法を導入して話題になりました。それは写真や図柄を切り抜いてシルクに焼きつけてカンヴァスに当て、それをインクローラーで刷ることによって転写するというもの。
美術史上、ウォーホールが遺した最大の業績のひとつは、「シルクスクリーン・ペインティング」の導入によって、芸術=作者の手技が生み出す一回きりの絵画という概念を刷新したことにあります。


ウォーホールは繰り返し、自己の個性や内面を否定する発言をしていました。インタビューの中では、「僕は機械になりたい」とも発言しています。
本来の芸術とは、芸術家の主観やオリジナリティを超えたものであるべきだ、というのがウォーホールの考えだった、と著者は書いています。
これもまた、大量生産・大量消費の仕組みを反映した思想であったと考えることができます。つまり、ウォーホールは「芸術」のなかに無個性的・匿名的な大量生産・大量消費のシステムを取り込んだのです。


ウォーホールは、キャンベルスープ缶やマリリン・モンローの他にも、エルビス・プレスリー、ジャッキー・ケネディーなどの有名人や、無名人の交通事故死、電気椅子、人種暴動、凶悪指名手配犯、花など、様々な題材を取り上げています。
この本では、それらの題材のすべてをほぼ網羅し、詳しい解説を加えている。
ウォーホールの芸術を知るには最適の入門書といえるでしょう。