書評:『金融NPO』

金融NPO―新しいお金の流れをつくる (岩波新書)

金融NPO―新しいお金の流れをつくる (岩波新書)


金融NPOは「新しい金融のかたち」として個人的に注目しています。


金融NPOの本義は、「見えるかたちでお金を融通する」ところにあります。
通常の預金や投資信託などでは、自分が預けた/投資したお金が何に使われているのか、
どのような株価や債券の取引に使われているのか、正確に知ることはできません。


もしかすると、海外で不当な取引をすることによって巨額な利益を得ている多国籍企業に投資されているかもしれないし、環境破壊につながるプロジェクトに投資されているかもしれない。
あるいは原油穀物などの実物商品に投資されて、その投資が原油高や穀物高を引き起こし、まわりまわって自分の生活を苦しくさせているかもしれない。


サブプライムローン問題も、本来ローンを組ませるべきではないような信用度の低い人々に対して無理やりにお金を貸し付けて、その債権を証券化した金融商品に様々な銀行・金融機関が手を出していたところにその発端があります。


一種のサラ金詐欺みたいなもんですが、僕たちが銀行や証券会社に預けていたお金が、まわりまわってそのサラ金詐欺に手を貸していたかもしれない。そしてそのことが今、自分たちの国の経済を痛めつけ、自分たちの首を締める結果になっているかもしれない。


金融NPOは、そうした不透明なお金の使い方に"NO!"をつきつける金融のありかただと言えます。今回の金融危機サブプライムローン問題をうけて、「金融資本主義の限界」が叫ばれていますが、では具体的にどのように現在の金融の仕組みのありかたを変えるべきなのか、という代替案はなかなかでてきません。
そのような状況のなかで、金融NPOは現状の金融制度のオルタナティブになり得る「新しい金融のかたち」ではないかと思います。


金融NPOには大きく二つのかたちがあります。
ひとつは地域活性化のために事業や人に必要資金を貸し出すNPOバンク」、もうひとつは風力・太陽光などの自然エネルギー発電事業や地域の起業を市民資金で実現する「市民投資ファンドです。


NPOバンク」は一般の銀行や信用金庫がお金を貸してくれないような非営利分野(環境、社会的事業、地域振興など)に対して、市民から集めたお金を低金利・低担保(or無担保)で貸し出します。
「市民ファンド」は風力・太陽光発電事業や女性・若者の起業など、社会性の強い事業に対して市民が出資し、そのプロジェクトを支援します。

「融資」と「投資」の違いですね。(NPOバンク=融資、市民ファンド=投資


どちらにしても、「自分のお金を社会的に意義のあるかたちで使ってほしい」という資金の出し手の意志と、それを受けて「社会を助ける事業を行いたい」という資金の受け手の意志を「結びつける」ところに金融NPOの役割があります。


貸し手と受け手、双方にとって融通されるお金の流れが目に見えるかたちで、社会的に意義のある事業に使われ、そして自分たちの暮らしに還元されてくる。
ほとんど無金利であっても、使い道が不透明な銀行や証券会社にお金を預けるよりも、金融NPOに「意志あるお金」を託すほうがずっといい、という人は世の中に結構多いのではないでしょうか。

バングラデシュの「グラミン銀行」のように、少しずつ金融NPOの輪が広がっていけばいいなぁ、と思います。



<日本の金融NPO事例>


日本でのNPOバンク先駆けになった「未来バンク」
http://homepage3.nifty.com/miraibank/


女性の起業を支援する「WCC」
http://www.wccsj.com/


Mr.Children桜井和寿小林武史が中心になって始めたエコバンク「APバンク」
http://www.apbank.jp/


などなど…