書評:『シンプル族の反乱』

シンプル族の反乱

シンプル族の反乱


シンプルな消費をする若者が増えてますよ、というお話。


たとえば衣料品では、ユニクロしまむら無印良品など「シンプルで」「安くて」「清潔感のある」商品が売れる傾向にある。かつてバブル期に流行したコム・デ・ギャルソンドルチェ・アンド・ガッバーナのような「派手で」「ゴージャスな」商品はどんどん売れなくなってきている。
自動車では、プリウスワゴンR、タントなどのエコカー、軽自動車が人気であり、80年代期に人気のあったソアラセリカ、シルビアなどのスポーティーカーは今ではまったく売れなくなった。
むしろ自動車じたいの販売数が落ちてきており、その代わりに自転車の販売数が増えてきている。


現代の「シンプル族」は、近代主義、物質主義、効率主義的な価値観に疑問をもち、できるだけシンプルで健康的な生活を送ろうとし、精神的な豊かさを求めようとする傾向にある、と著者はいう。


このシンプル族を体現するキーワードが「ロハス」である。
ロハス(LOHAS)とは、Lifestyle of Healthy and Sustanability(健康的で持続的な生活)の略であり、日本でもすっかり定着した言葉になったが、流行語としてはもはや旬がすぎてしまった感がある。

しかし、この本の著者は、日本では「ロハス」の本来の意味が正しく理解されていないという。
日本ではロハスという言葉は流行したが、「カルチュラル・クリエイティブズ」という言葉は流行しなかった。この点が問題である。

カルチュラル・クリエイティブズ(Cultural Creatives)という言葉は、Simple Living(質素な暮らし)を志向し、「たくさん物があるのはいいことだ」という豊かさと消費についての考え方を批判的に捉え、精神性や健康を重視し、家族や友人と質の高い時間を過ごすことを重視する。
カルチュラル・クリエイティブズの起源は、1960年代のアメリカ文化にある。60年代の公民権運動、反核運動ベトナム反戦運動、環境・エコロジー運動、女性解放運動などが挙げられる。さらにヒッピー思想、ヨガ・禅などの東洋思想の流行が重なる。


日本人の生活は戦後ずっと洋風化し、アメリカ化してきた。現在の40代以上、特に50代、60代は幼少期にアメリカ文化への憧れをテレビドラマや映画などを通じて植え付けられてきた。だからアメリカのようなファッション、食文化、住宅、クルマ、音楽を求めて消費してきた。
ところが現在の30代以下は、そうしたアメリカ化の動きが弱まってきてから生まれ育った。彼らの少年期にはすでに日本の産業は世界的に強くなっており、クルマもエレクトロニクスもアメリカを追い越していた。だからもうとりたててアメリカへの憧れがないのである。
アメリカへの憧れをなくした若者が求めるのは、ヨーロッパ的な伝統だったり、アジア的なヴァイタリティだったり、日本の文化だったりする。日本の伝統文化は元来自然と融和するものだったから、ロハス的な思想はますます若者に受け入れられやすいことになる。


このような①反物質主義的な価値観への移行に、②不況にともなう所得の低下、③将来への不安からくる貯蓄傾向、④環境意識の高まりなどの要素が加わって、人々のシンプル消費傾向を高めている。


結論としては、これからのマーケティングは、以上のような「シンプル族」の傾向をふまえていかないとマズいですよ、という話になっている。


先日、西武百貨店の有楽町店に続いて、京都四条河原町の阪急百貨店が閉店になるというニュースがあったけれど、ここ数年の百貨店業界の不振もこのような「シンプル族」の増加に大きく影響を受けているのではないかと思う。
そのいっぽうでユニクロマクドナルドが過去最高益を更新していることが象徴的だろう。ただ安いからというだけではなく、この本で指摘されているような価値観の変化がその背景にあるのではないか。


三浦展はあんまり好きじゃないんだけど、この本に書かれていることは珍しく全般的に賛成。
まぁたいしたこと書いてないともいえるんだけど、世の傾向を捉えて、それをうまくネーミングするこの人の才能はやはりピカイチだと思う。


◆参考:「嫌消費」世代(週刊ダイヤモンド
http://www.jmrlsi.co.jp/menu/mnext/d01/2009/diamond200912.html